第五話「旅をする湖」

豊饒の海は青くない。プランクトンが豊富で、無数の魚が生きていける恵み深き海は、濃い緑に濁っているのだという。どこまでも澄みわたって青い海の美しさは、いってみれば砂漠の無慈悲な美しさにも似ているのだ。

 というようなことをみているときに思い出したのだが、つまり今回の話のオチは「沼が海を目指している」と「沼の深い緑色」の二点でほぼオープンなものだったともいえる。すなわち、生命のサイクルにおける世代交代、新たなる誕生の糧としての古きものの滅びの予感。
モノトーンに近い深山幽谷蟲師すらその中に溶け込んでいるなかで、鮮やかな色彩を放つ(まさに「生彩」である)移動する沼と女の髪の毛の色がとても綺麗だ。
 女の過去とその浄化は特別ひねったものではないけど、最後に着せられた晴れ着への執着が最後に彼女が現世復帰する大きな暗示になっていたりと、決して粗雑に流れないのはいい。
 考えてみると、ただ不思議な存在と出会って、それが死んでいくのを見届けるだけの話なのだが、そこに巻き込まれた小さきもの(女)の生との対比を通して、シリーズの基調である、未知なる巨大な何かへの畏敬の気持ちをきちんと感じさせるのは見事としかいいようがない。

 ギンコが戦利品(?)を売っているうえだゆうじの医者がいい味をだしている。