第三話「柔らかい角」

前回の「視覚」を巡る物語と対を成すような「聴覚」を巡る物語。しんしんと雪の降り積もる村の情景が素晴らしい。

「阿」に憑かれた娘の体感している症状を視覚的に表現するシークエンスは前半の白眉で、似た手法は映画『デアデビル』などでも試みられているけど、雑音や轟音というのではない「充満する音」は、(このシリーズの基調である)「畏怖すべき」体験として、異様でありながら美しいビジュアルとして、見事に結実している。
後半のキーとなる阿の殺しかたは、物語として筋は通っているけど、あれだとほとんどの患者が無意識的に治療に成功しそうでもある。音がうるさかったらまずやることが自分の耳に手を当てることだろうから。
いや、実際にはけっこうの人が阿に憑かれていて、しかしたいていの症例では蟲師に頼ることなく無意識的に排除できているということであるのかもしれない。悪化していくものは、終盤、ギンコとの別れの場面にちょっとでててきたように、あちらの世界に魅入られたがゆえに、音を聞きづけてしまった人たちであるのかもしれない。

すなわち、異界に通じる蟲たちの音に耳を傾けるか、自分の根源である心音――生命の律動の音(それは、地球の命脈である溶岩流の音と重ねあわされる)に耳を傾けるか、これは、そういう物語であるのだろう。

なお薪のシーンは、美しくも恐ろしい、という以上にちょっとグロでした。密集系だけはどうにも駄目でございます。