第四話まで

 いうなれば、『金色のコルダ』幕末編。あるいは『ヴァンパイア騎士』インジャパン。ディーン制作で中島敦子キャラクターデザインという観点からすると、『るろうに剣心』前史もという見方も可能……かもしれない。

 新選組というそれ自体に人気のある題材に、主要構成員総イケメン化という恋姫無双ストロングスタイルの「萌え」アレンジ、さらに伝奇ロマン的な要素を絡め、さらにメインの視聴者層が投影できるヒロインを参入させる、という……ちょっと、いろいろ乗せすぎのような気もしないでもない企画で、しかし手堅くファンもつきそうな作品ではある。じっさい、いささかカラフルすぎるきらいはあってもキャラもちゃんと立っている(というか、新選組に詳しくないので、あれぐらい派手だとおぼえやすくてよい)し、ヒロインは中島敦子キャラらしく、かわいくしかもりりしい。殺陣などのアクション作画もなかなか。これを機にちょっと新選組について調べてみたら、池田屋襲撃では史実でも平助が額に怪我をしているとか虚実の混ぜ方も面白い。新選組を清廉な集団という観点で描いてないぶん、今後の展開が過酷になるのは目に見えているが(とりあえずすぐ近くにあるのは山南の死――それもレベルEになっての?――だろうか)、きびきびとした進行から、中途半端なラインで逃げないという姿勢も伝わってきて悪くない。
 
 のだが、しかし。隔靴掻痒の感あり。

というのも、ライターが基本をわかってない気がするのだ。伝奇ものとしての基本ではない。それはたぶん問題ない。歴史物としての基本でもない。これもたぶん問題ない。
 問題なのは、キャラクタードラマとしての基本、もう少しいうなら、少女漫画的な物語としての基本がわかってない気がするところである。

こういういわゆる逆ハーレム的な(ゲーム業界的にはネオロマンスとか言うのかな)作品は、主人公(ヒロイン)が周りの男どもを篭絡していく展開にどれだけ説得力をもたせられるかどうかで、成否がおおきく分かれる。『コルダ』の日野さんにしても(ゲーム原作じゃないけど)『ホスト部』のハルヒにしても、千鶴とおなじく桑島法子が声を当ててる『彩雲国』の秀麗にしても『しゅごキャラ』のあむにしても、男キャラと親密になる(あるいは、心の隙間に入り込む)展開に一人につき最低一話ぐらいはかけて、「なぜ彼女がハーレムを作れたか」を視聴者にじっくりみせていくのはそのためだ。

理由はともかくヒロインが主人公に対して無条件に発情しているような強引なプロットでも許容されうる男向けのハーレムラブコメとは、その辺がけっこう異なる。男向けの「萌え」漫画におけるプロットとは全部がそうとは言えないにしても、おおむね裸とか下着とかその手のものを描くための口実として存在している場合が多いので、逆に言えば、あくまで口実として存在してさえいれば、かなり適当でも許容されうるのだが、女向けのその手の漫画は、イケメンがたくさん登場してかっこいいポーズを決めたり「おまえは俺が守る」的な台詞を言ったり、裸を見せ合ったりすることも重要だが、それ以上に、どうしてそういう状況になるのか、がポイントになる。結果(視覚的、物理的な萌え表現)よりも、過程(関係性の構築)こそが「萌え」なのだ。そういった意味では、じつは男性向けと女性向けでは「萌え」対象のキャラクターの性別以上に大きな隔たりがあるといえる。
 であるわけなのだが、どうもこのスタッフは、性別に逆にしてやっておけばそれでオッケーなんでしょ? とばかりに個別イベントも掘り下げもせずに、どたばたと話を進めてしまっている。発想としては、少年漫画的な、つまり、男向けの萌えアニメの方法論といっていい。これでは、駄目だ。新選組のイケメンどもがなんのために千鶴を守って戦うのか、彼女が伝令その他の役割で戦線に参加することを喜ぶのか、ドラマ的な説得力がなにもないではないか。
男キャラとの関係性の描写が出来てないというのは、とりもなおさず、ヒロインのキャラも掘り下げられていないということでもある。三話も費やして、千鶴はいまだ守られているだけのお姫様ポジションメインで少年漫画のヒロインと大差ない。山南におむすびを持っていくくだりとか、彼女の少女漫画ヒロインとしての資質(全方位的包容力とか女性的魅力とか、人間的な強さとかそういったもの)と医師の娘としてのストーリー上の重要性を一気に見せることができる格好のイベントであったろうに、ライターがそのことを意識してないために非常に半端な描写になってしまっている。あそこはもっと火花が散る勢いで山南と対峙するべきだったろう(そうして千鶴教徒が増えていくわけである)。別に女性の脚本家を呼んでこなくてもいいけど、男女を問わず、少女漫画の基本をわかっている人材をみつけてくるべきと思う。題材は良いのだから、実にもったいない。今後の巻き返しに期待したいところではあるが、すでに話が動き出してしまっているので難しい気もする。千鶴本人の秘密に絡む展開あたりですこしは掘り下げがなされるだろうか?

大谷幸による、随所に電子音を交えた音楽は面白い。

あとこれはスタッフのせいではないし、実質的にたいした秘密でもないにせよ、何とか水だののネタバレをデジタル放送の番組データ紹介欄でしてるのはどうかと思う。