第十話

 我輩はゼロである。知能はまだない。
 ――という話。
 いや確かにルルーシュとしては、その辺の背伸びをしたいお年頃の高校生ぐらいの知能はありますが、ゼロとしては、現時点では、ギアスと兵器の能力に頼ったしょぼい作戦しか立案できないという、戦略家としての才能は微塵も感じられない人材だし、テロリストとして今後なにをしたいのかというビジョンも見えない。ブリタニアを潰したいのか、主権を回復したいのか、どちらでもいいし、両方でもいいが、やっていることのほとんどがそのどれかへ直結することでもないし、ひたひたとにじり寄っていく(ようにみえる)ものですらないのが困るところなのである。見えているのはとても個人的な「復讐」というタームだけ。反逆じゃないじゃん!

だいたい、チェスの達人としう設定の癖に黒の騎士団をデビューさせたから人気取り、コーネリアから引き出したい知識があるからコーネリア捕獲、一手先のことしか考えてないようにみえるのはどういうことか。
 もっとも、チェスとか将棋というのは序盤はともかく中盤以降はいかに手駒を切り捨てれられるか――読みに従って要不要を見きわめられるか――が肝のゲームなので、信義とか正義とか弱者を助け、といったお題目の人にはとっても向かないものなのだった。もしかしたら、ルルーシュが黒の騎士団をざくざく道具利用して切り捨てていくという非情な展開の伏線であるのかもしれないが、今現在のスーパー甘ちゃんぶりでは、どうもそういうのは望めそうにないように思うのである。

 今回の作戦だってかなりひどい。
 山小屋に押しかけて、俺様が根城にするから、見てみぬ振りをしていてね、とかギアスの無駄遣いもいいところ。交代要員が来たときマスクをしてなかったら、とか、そのなかにたまたま以前ギアスをかけた相手がいたら(それこそ左遷されたオレンジの人とかね)、とか、ちょっと想像力が働けば、怖くてとても出来ないことを素敵なカッコつけをしつつやるわけである。しかも、戦闘が始まってから部下の説得とか、ありえないような馬鹿なのですよ。ミーティングは遠足に行く前にしておきましょう。
 そして極めつけは突然でてきた新兵器を使った「秘策」という名の環境破壊攻撃。あのう、戦災復興部隊への嫌がらせですか。仮にブリタニアを追い出しても、黒の騎士団は箱根の住民から感謝されることはないであろう。独立戦争ならまだしも、目的が「母親の仇を突き止めるため」じゃあ絶対無理です。

 しかしシナリオのポンコツ具合とは裏腹に、たとえばナナリーが兄のしていることをもうほぼ感づいていることをさりげなく示すシーンなどを見てもわかるように、演出方面はクオリティが高く、安定した作画とあいまって、作品全体は妙に風格のある仕上がりになっていて、それは今回も変わらない。その、表層と内実のギャップ具合は、スティーヴンキングキューブリックによって映画化されたシャイニングを評して言った「立派な車だがエンジンが入ってない」をちょっと思い出すものがある。
 せめてルルーシュの目的ぐらいもう少しちゃんと決めて、後もう少し賢いキャラにしてやれないものなのだろうか? そうでないとこれ、一年間(名塚香織談)もたないですよ。