第十七話

前人未到の新天地と思いきや、原作のエピソードをつぎはぎしてくるだけなのでした。生真面目というかチキンハートというか意欲がないというか。
 冒頭のしょぼい過去パートはみなかったことにしよう。この世界のアーサー王はマーリンも円卓の騎士もいない無能王なのでしょう。
 さて本編。のっけからしつこい食事描写。この家の人たちは本当に朝からよく食べるなあ。しかもデザートまで。毎食こうなのか?
 食後はシリーズ名物、お得意作戦会議。原作から離れてもこれは譲れないというわけです。簡単だもんね。「次はどうしよう」「こうしよう」「うん」で今後の展開の説明が出来るうえ、その展開にいたる心理描写とかしないですむし。葛木先生が怪しいっていうのは作中ではほとんどわからない気がするんですが、少しでも疑惑があるやつは片っ端からぼこっておこうという考えなんでしょうな。ライダーの結界がらみではいずれ犠牲者がでるのはどう考えても確実なのにみすみす放置するという、穏健慎重居士だった凛ですが、いまは気分はラムズフェルド。士郎くんは自分で考えているようで、「そうだね遠坂」というのが仕事です。彼に自分で考えさせると、ふらふら街をうろついたりするので、これのほうが安心ですが。
 さてそんなこんなで葛木先生をぼこることは決まり、そこに現出するは、原作のなかでも屈指のトンチキバトル。すなわち、戦闘機四機分(原作者談)のサーヴァントのなかでも最強といわれるセイバー相手に「素手」の格闘技で圧倒する高校教師! 
 ハイ素晴らしく原作どおりです。
 なお、彼が「わたしはそこいらにいる枯ち果てた殺人鬼」と湿度充分のロマンチック&乙女チックなふたつ名を名乗る、悪い意味で鳥肌の立つ一瞬も忠実に再現。殺人鬼はそこいらにいません! やっぱりこのスタッフ原作嫌いなのでは。
 そういえば、ゲーム続編「ホロウ」によれば、この人、一人しか殺してないんだよねえ。殺人鬼っていうのとはなんか違う……ってゆーか過剰申告?
 ちなみに、一組が戦っているあいだは他の人が棒立ちというような頭の悪い情景をぬけぬけと出すあたりは、もはやこのアニメにおいては定番ですので、いまさら腹を立てもしょうがありません。キャスター対凛の魔術師対決なんかも同時進行でやれば視聴者も余計なことを考えずにすむから、不自然も目立たなくなるような気もするんだけど。どこまでもゆったりと問題点を考える時間をくれるのは、親切としかいいようがないですね。
 戦いが小休止したところで驚愕の展開。サーヴァントよろよろ、魔術師魔法使えず、士郎は勝てるわけないという素晴らしい状況をまえにして、今日はここまでにと勝手に帰っていくキャスターチーム。ここで士郎を殺しておけば、セイバーは消えるし、魔術師はお持ち帰りできるしでとってもお徳なのに。このアニメのスタッフ並にやる気がありません。この素晴らしき主人公にやさしい世界。ふつうこういうところは撤退するのにもうすこしまともな理由を用意するだろうに。一応オリジナル展開なのに、原作に頻出する「描きたい場面重視でそこへもっていく流れが雑」ってのはちゃんとおさえるとは、ある意味頭が下がります。まったくもって佐藤卓哉なにをやっているのか。
 そんなわけで桜が攫われてもなんの危機感もありません。

 殺しておくべき相手が殺せる状態にあるのに殺さない敵に誘拐されてもなにが怖いことがあるものか。

 ああ、そうだ。今回、剣を封じられたセイバー(未来予知に近い運の良さはどうなったんでしょうかねえ)ですが、予告でばっちり使ってたのは、視聴者に無駄に心配させない気配りの産物ですね。これまた頭が下がります。